Chapter 1

闇があまりに広がっている。

前から気づいていたのに、信じたくないという気持ちから見て見ぬ振りをしてきた。

明らかに、伝承通りの出来事が現在あらゆる世界で起こっているんだ。

行かないと・・。

闇を生み出す為に扱われてはいけないから・・

光を生み出す為には絶対に必要だから・・

一つの可能性を見つけると共に、もう一つの可能性を防ぎに行かないと・・。

これは僕じゃなくちゃならないんだ。

膝に前足を乗せ、激しくじゃれてくるプルートを手で撫でながら、ミッキーは静かに立ち上がった。

前々から用意していた置手紙をプルートに頼むようにくわえさせ、同様に用意してあった旅支度を手にする。

使わないことを祈りながら用意したこれらの物を、ミッキーは使いたくなかった。

みんな心配するだろうけど、チップとデールに関しては大丈夫。

誰にもばれないでグミシップに乗るための準備は出来てる。

ドナルドとグーフィーがいるから、万が一の事でも対処のしようはあるだろう。

ミニー・・・・心配するだろうな・・・・

そんなことを思いながら、王は乗りなれた船に乗り込み、慣れた手つきで自分が本来いるべき場所を去った。



ここはトラヴァースタウン。

故郷を失い、希望を奪われた人々が集まる町。

ここみたいなたくさんの人が集まる所だったら、何かの情報を手に入れられるかもしれない。

あわよくば、そのものが見つかるかもしれない。

路地裏を抜け、大きな広場に到達し、周囲を窺う。

何か知っていそうな人を探し、話を聞いてみよう。

一歩、また一歩と歩み始めたその時、突然後ろから声がしてきた。

今僕がいるのは入り口のはず。今入ってきたばかりの僕の後ろに、人がいるはずはないんだ。

ということは、僕が気づかない間に、素早く僕の背後に回ったということなのかもしれない。

「おい、そこのお前。腰にくくりつけている‘それ’をよく見せてくれないか?」

赤の他人に対して命令口調で聞いてくるその声は、冷たい感情の深層に熱い信念のような物が感じられた。

振り返り応えようとすると、相手の姿が目に入ってきた。

淡く薄い茶色がかった髪が肩辺りまで伸び、眉間に鋭い傷が一本刻まれている。

僕の背丈よりずっと大きく、177cmぐらいの男性だ。

男は既に握られた大仰な剣を構え、加工されたスピネルのようなコールドカラーの瞳で僕のことを見据えていた。

「やあ、君は一体誰だい?それというのは、どれのことかな?」

「この状況から、よくそんなことが言えるものだな。まあ、それの所持者としては、俺ぐらいの器じゃ役不足って言いたいのか?」

「何を言っているのかわからないけど、僕の事を知っているのかな?それより、闇について何か知っているかな?」

「・・・・・」

名も名乗らない(僕もそうだけど)男は僕には応えず、いきなり持っていた剣を振りかぶってきた。

反射的に危険を感じた僕は、腰にくくりつけてあったものを咄嗟に構えて、相手の剣を防いだ。

「やっぱりか・・お前が鍵の持ち主なんだな・・お前みたいな容姿・背格好だったなんて予想外だった・・」

「君は鍵について知っているようだね。なら闇についても知っているよね?なにか教えてくれないかな」

「聞きたいのは俺の方だ。この世を闇に染める者!お前はどこから来て、どうやってこの世を闇に染めているんだ!」

「何を言っているんだい?なにか誤解されているようだけど、君の知っている内容と僕のそれとは少し食い違っているみたいだよ」

「黙れ・・」

僕の話を聞く様子もなく、男が激しく剣を振るってきた。さっきの一撃は、僕のキーブレードを確かめようとした軽い一撃だったのは明白だ。

僕も必至になって応戦するけど、相手を気遣っていたらやられてしまう。

そんなことを考えていると、相手の剣が淡く光り始めた。そして彼は軽く地面を蹴ると、小さく言葉を発した。

「・・・フェイテッドサークル・・・」

相手が剣と共に空中で一回転した瞬間、光り輝くいかにも危険な衝撃波が襲ってきた。

すぐ様周囲に人気がないことを確認した僕は、ダメージを覚悟で衝撃波に突っ込んでいった。

なまじ避けようとして身体を強張らせる事より、ダメージを受けることを確信して、相手へ攻撃を仕掛けるのが一番だったのだ。

キーブレードで出来る限りの威力低下を図り、相手の着地地点に駆け寄った。

先程までの攻防で、僕の方からは攻撃を仕掛けなかったから、体力はまだ残っている。

他人に怪我をさせたくないけど、こんな所で時間を食って入られないんだ。

それから定位置にキーブレードを構えたミッキーは、そのままスピードを落とさずに男に近づいていき、小さく言葉を発した。

「・・・超究武神破錠・・・」

「こ・・・この技は・・!?」

激しい轟音は、その戦いに終止符を打った。

僕はキーブレードを元の場所に戻し、倒れこんでいる男の人に手を差し伸べた。

「すいません。大丈夫ですか?」

「くっ・・・外界の者に干渉してはいけないから手加減したとはいえ、この俺をここまで・・・」

「あの・・勘違いしていますけど、僕は闇を生み出す存在ではありませんよ」

怪訝な顔をしながら状態を起こした男に、ミッキーは詳しく事情を話した。

「お前の話が本当ならば、悪いことをした。てっきり俺は、鍵を持つ者は闇を生み出す元凶とばかり思っていたようだ」

「鍵の事について知っているだけでも、君は凄いよ!君の知っていた話は、断片だったんだね。

鍵を持つ者は、光の存在で、光を生み出す者である。鍵を持つ者は、闇の存在で、闇を生み出す者でもあるんだ」

「お前は一体何者なんだ?何でここ、トラヴァースを訪れたんだ?」

「僕の名前はミッキー・マウス。見ての通り鍵を持っている。僕は肥大し続ける闇を止める為に、その手掛かりを探しているんだ。

同時に、もう一人の鍵の持ち主を探している。鍵は光にも闇にも成り得る。闇を止めるには一つの鍵が必要なんだ。

でも、もう一つの鍵で闇を生み出してしまったら、闇を止められない。それを防ぐと共に、僕は世界を元に戻そうとしているんだ。

一つの鍵だと闇を止める事しか出来ない。でも、もう一つの鍵を光へ導き、一つの鍵で闇を止めている間に光を生み出してもらうつもりなんだ。

そうすれば闇は完全に消えて、世界は元通りになるはずなんだ」

「そういうことか・・・ミッキーの話し振りだと、自分の世界は滅びていないようだな。

だが、俺の世界は滅び、ほとんどが失われてしまった。それを元通りに出来るのは、ミッキーともう一人の鍵に選ばれた者だけらしい。

ミッキーたちに全てを任せるしかないな・・」

「そんなことはないよ。皆に出来る事はたくさんあるんだ。お願いがあるんだけど、君の故郷について教えてくれないかな?」

「そうか・・・わかった。俺の故郷の名はホロウバスティオン。

たくさんの優しさで溢れ、優しい賢者様がおられたいい場所だった。だが突然、俺の小さい頃に世界が崩れ去っていったんだ。

そう・・・まるで、事象が闇に飲み込まれていくようにな・・・それだけが強く印象に残っている・・・」

「そうだったんだ・・・・。最後に一つお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?あと・・君の名前も・・・」

「俺の名か・・・・スコール・レオンハートだ・・・レオンでいい・・・頼み事とは何のことだ?」

「ありがとう、レオン。君も鍵に選ばれた者を探してくれないかな。僕だけでは難しいと思うんだよ。

僕は鍵の持ち主を探しながら、闇の元凶を止めに行く。もし、闇の元凶を先に見つけたとしたら、僕はそれ以上闇が増えないように、

闇の力を止めると思う。そうしたら、もう一人の鍵の持ち主を探せなくなるし、探す者がいなくなってしまうことに気づいたんだ。

だから、その時のために手伝ってくれるかな?」

「わかった・・・なら、急ぐんだな。闇は今も刻々と増え続けているんだ。期待はするな・・」

「ありがとう」

僕は一言礼を述べ、予想以上に早くトラヴァースタウンを出発する事になった。

それほど、いい体験をすぐ様できたということだ。

目的地はホロウバスティオン。とりあえずはその被害となった場所を探しにいこう。

おそらく、その場所は既に残ってはいないと思うけど、それを目指す間にも何かの手掛かりを手に入れられるだろう。

でも、今は一旦戻ろう。

まだ僕が去ったことは気づかれていないはずだから、戻って万全の準備を済ませてから再出発しよう。

プルートに渡した書置きの手紙の内容も、変更しなくちゃいけなくなったからね。

そんなことを小さく呟きながら、ミッキーは来た時と同様の道を、再び戻って行った。

光り輝く場所を目指し、覆われていく闇を背後にして・・