Chapter 2
静かに乗りなれた船を到着させ、ミッキーは通いなれた道を通り抜けた。
建物の中を進んでいくと、静寂の中、何かが長い廊下の先から、近寄ってくるのが見える。
プルートだ。
こういう時の状況を、いつも把握してくれる賢い友達だから、吠え声をわめき散らすことなく、
嬉しそうに僕に飛びつき、顔をなめまわしてきた。
僕は静かにそれを制して、右耳をなでながら、喋りかけた。
「プルート、違うんだよ。まだ、終わったわけじゃないんだ。
やっと、はじまったといっても言いすぎじゃない。
これから、すぐ、また誰にも気づかれずに行かなきゃならないんだよ。」
落ち着きを取り戻したプルートは、規律とし、お座りしていた。
ミッキーは表情を和らげ、穏やかに笑みを浮かべながら、
船内で用意していた、新しい手紙を手渡した。
プルートは何も言わずに理解してくれたらしく、ゆっくりと踵を返し、
幾度も振り返りながら、来た道を戻っていった。
僕も悲しいよ…プルート…
憂鬱な気分の中、そんな暇も僕には与えられていないことを自覚し、
気持ちを切り替えて、僕もプルートのように、何度も振り返りながらも、
来た道を戻っていった。
再び、世界を巡るために…
グミシップに乗り込み、ミッキーは当ても無い道を選ぶように、発進した。
ホロウバスティオン…
信じられないけれど…まさか、そんなことはありえない。
信じたくない。
妙な期待と確信、不安と疑心を持ち合わせながら、
ミッキーはホロウバスティオンへ向かう。
慣れた道を通って…
そう、ミッキーは以前にも、ホロウバスティオンを訪れたことがあった。
レオンの口からホロウバスティオンと聞いたときには、内心、焦慮と動揺でいっぱいだった。
必至に落ち着きはらって、レオンには対応したつもりだったけど…
彼の目は、十分僕を見破っていたのかもしれないな。
ハンドルを握りながら、深く思い耽っていると、冷や汗が体を伝わるのを感じる。
実のところ、ホロウバスティオンには行きたくないと、思い始めていた。
そんな気持ちとは裏腹に、ミッキーが改造した中での最高のグミシップは、
どんどん、その距離を縮めていった。
まるで、ミッキーの逸る好奇心ともいえる、不思議な感情のようなスピードで。
その場所で間違いないはずなのに、ミッキーは自分の目を疑った。
以前、訪れたときに目に付きつけておいた光景は、
およそ数百年、誰も手をつけずに放っておいたように、廃れ、壊れていた。
ミッキーはその風景を前にして、呆然と立ち尽くした。
原因が問題なんじゃないんだ。
問題は、何故、どうやってこうなったかなんだ。
原因は言わずとも、頭に浮かんでくる。
闇だ。
レオンの言ったように、闇が突然現れて、この美しい国を無残な姿にしてしまったんだ。
そう…問題は、どうして闇が出現したかなんだよ。
崩れ去り、豊穣を意味する水が、散乱しているなか、
ミッキーは静かに、頭に重くのしかかっている、不安を確かめようと、
覚えている道を、どんどん進んでいった。
本来ならば、ゆっくりと風景を楽しみながら歩いたのだろうが、
こんな、悲しい風景は、嫌でも眼に入れたくなかった。
慎重に進んでいくと、遠くの方に周囲とは異なった、艶やかな色彩が眼に入ってきた。
こんな廃墟に、あんな光るような黄色が?
ミッキーは見間違いだと思いながらも、進んでいくと、
なんと、それは一人の人影だった。
まさか、あの人か?
脳裏をかすめる嫌な不安で、心を痛めながらも、ミッキーは静かに考えを改めた。
いや、違う。
あの人は、あんな派手な金髪ではなかった。
どうやら、旅人のような姿だったので、ミッキーは穏やかに話し掛けようとしたが、
相手の方が、先に話し掛けてきた。
「お前は…誰だ…?」
小さく呟いた声の主を、自分の目で確かめようと、ミッキーは相手に近づいてから、返事をした。
「僕の名前は、ミッキー・マウス。君はここで、一体何をしているんだい?」
激しく立った輝くような金髪をした男は、異様な雰囲気を醸し出していた。
冷たく輝く、蒼の瞳は、何やら不思議な力によって成されているように、ミッキーは感じた。
肩にもたれかかった右手で、大仰な剣を持っていた。
冷たい風で、羽織るマントが静かにゆれる中、その男が、再び口を開いた。
「人を探しているんだ…」
一言呟くと、なんと、男が振りかぶってきた。
ミッキーは驚き、咄嗟に後退した。
「いきなり、何をするんだよ」
だが、声はまだ、冷静さを保ち、穏やかだった。
21歳ぐらいの年だろう。背丈はおそらく、173cm。
白い布切れのようなもので覆われた、巨大な剣を、細い腕がより一層、大きく見せていた。
「お前が、俺の探し人を知っているかどうかは、俺が確かめる」
ミッキーは意見しようとしたが、素早く攻撃してくる相手に、成す術無く、戦闘させられた。
巨大な剣を、棒切れを振るうように襲い掛かってくるのは、圧巻だった。
でも、ミッキーはこんなところで、時間を食っている場合ではなかった。
刻一刻と、いまこの時、闇はだんだんと広がっているんだ。
猶予は無い。
仕方ないか…と、半ば諦めながらも、ミッキーは攻撃態勢をとった。
一撃で決められなければ、こっちが殺られるのは明白。
ミッキーはキーブレードを抜き、真っ直ぐと構えた。
金髪の男は、飛ぶように走ってきて、思い切り大剣を振り下ろした。
だが、瞬間、相手が小さく呟いたかと思うと、激しい衝撃が、ミッキーを襲った。
「メテオレイン…」
着地と同時に高く飛び上がったかと思ったら、金髪の男は突然空中で激しく一刀を振るった。
瞬間、激しいエネルギーの塊が振り落ちてきて、ミッキーは凄まじい衝撃を受けてしまう。
一撃目をどうにか防いだものの、まさか、着地時に攻撃を受けるとは思わず、
ミッキーはキーブレードを、手から落としてしまい、倒れこんでしまった。
けど、それはむしろ好都合だった。
相手は、もちろん、武器を無くし、こちらが無防備だと思い、油断するだろう。
そこに、付け入るのだ。
金髪の男が、再び大きく振りかぶった。
ミッキーは一瞬にして、集中し、力を溜めた。
それから、渾身を振り絞って、素早く立ち上がり、行動に出た。
そのミッキーの手には、キーブレードは無い。
キーブレードは、ミッキーから2mほど離れた場所に、落ちていたから。
ミッキーは、素手で戦うつもりだった。
相手は、何の問題も無いように、剣を振るってきた。
だが、それはミッキーの思惑通りだった。
「僕式ファイナルヘヴン!!」
ミッキーが声を張り上げた瞬間、激しい光が右こぶしから発せられ始めた。
突然のことに相手の男は、目が眩んだらしく、一瞬の隙が出来た。
その間に、ミッキーは渾身の一撃を、相手に打ちつけた。
激しい爆音が鳴り響き、凄まじい埃が周囲を満たした。
既に瓦礫となった周りが、衝撃波で一層、状態が悪くなった。
相手はうめきながらも立ちあがり、しずかに口を開いた。
「枷をつけていたとはいえ、俺に一撃を与えるとは…
どうやら、俺の見間違いだったようだ…」
「ねえ、君は一体、ここで誰を探しているんだい?そして、君は誰なんだい?」
一時の沈黙の後、その金髪の男は答えた。
「俺の名はクラウド・ストライフ…
ここで、人を探しているんだ…
だが、もういい…
ここには、いないようだ…」
「もしかして、それは…ここの統制者だった人物かい?」
「いや…違う…」
立ち去ろうとする、クラウドに、ミッキーは咄嗟に聞いた。
「ここで何が起きたかしっているかな?
出来れば、教えて欲しいんだけど…
このホロウバスティオンを、こんな風にした元凶を…」
クラウドは見下すように、にらみつけてきて、それから、静かに答えてきた。
「それは…まさに、ここの統制者だ…」
ミッキーは驚愕し、それと共に、自分の考えに確信をつけた。
「君は…ここの出なんだね?やっぱり、彼を探しているんだろう?
その…君が今探している人物が違う人だといっても…
その人だって、探してはいるんでしょう?
だって…自分が住んでいた国を治めていた人が、その秩序を壊したんだから…
何があったか聞き出そうとしているんでしょう?
よくないけど…復讐とかも…考えているのかな?」
ミッキーが不安そうに問いただすと、クラウドは踵を返し、ミッキーの来た道へと歩いていってしまった。
ミッキーが再び大きく聞いた。
「君だって、自分の世界を壊されたら、悔しくて…
しかも、その人物が生きているとしたら、探し出すでしょう?」
クラウドは振り返ることも無く、一言呟いた。
「興味ないね…」
ミッキーがクラウドの冷たい顔を、その場で見ることはもうなく、
程なく、クラウドは見えなくなった。
ミッキーは当初の予定を確信付け、奥へと進んでいった。
悲しみを胸に…。
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