『文献のルーン』
ルーンをどのように魔法に使ったか記してある文献は『古エッダ』です。
特に、『シグルドリーファの歌』にはルーンの使用について、貴重な記述が存在しています。シグルズは、フランケンの国に向かう道沿いの山上に天に輝く光を発見します。
そこには、完全武装をした人物が、そのままの姿で眠っていたのです。兜をはずしてみると、その人物が女である事がわかります。
彼女はワルキューレ(オーディンに仕える戦乙女)でした。オーディンに逆らった咎で、眠りのいばらに刺され、「眠りのルーン」によって深い眠りに落ちていたのです。シグルズによって目覚める事が出来た彼女は、その礼に智恵を授けてくれるよう願った彼にルーンの智恵を授けます。下記にあるのは本文からの引用です。
戦の樹(勇士の事)よ、力と名声の混ざったビールをお持ちしましょう。
その中には、呪文と医療のルーンと効き目の強い魔法と愛のルーンが一杯入っているのです。勝利を望むなら勝利のルーンを知らねばなりません。剣の束の上に、あるいは血溝の上に、また剣の峰に彫り、二度テュール(軍神)の名を唱えなさい。信じている女に欺かれないようにしたかったら麦酒(ビール)のルーンを知らねばなりません。角杯の上に、手の甲に彫りなさい。
爪にナウズのルーン( )を印しなさい。角杯を潔め、災いに対し身を守り、飲み物の中ににらを投げ入れなさい。そうすれば、あなたの蜜酒に災いが混ぜられることは決してないのを私は知っている。妊婦の出産を助けたければ、安産のルーンを知らねばなりません。手の平にそれを彫り、関節を伸ばし、それからディースたち(女性の守護神)の加護を願いなさい。帆の馬(船のこと)の海路の安全を願うなら波のルーンを使わなければなりません。舳先と舵の上に彫り、櫂に焼きこまねばなりません。高波はおさまり、波が黒くもならず、無事に港につけます。医者になって傷を看ようとするなら枝のルーンを知らなければいけません。樹皮の上に、東に向かって枝をの垂れる森の樹の上にそれを彫りなさい。何人によっても怒りにまかせ恨みを返されたくなければ雄弁のルーンを知らなければなりません。人々が法廷に行く民会でそれを編みおり、すべてを組み立てます。誰よりも賢くなりたければ智恵のルーンを知らなければいけません。さて、ワルキューレが語ってくれたルーンやその他のサガ(物語)に登場するルーンを下記に紹介しておきましょう。
戦の神であるテュールのルーン( )を刻む事で、その力の一部を授かることが出来ます。テュールは武勇にすぐれる神であり、また賢明な神でもあります。その力を授かれば、戦いに勝利できるのです。使用法は、ワルキューレの言うとおり、武器にルーンを刻んで、テュールの名を二度呼ぶのです。武器が敵の血で濡れ、ルーンに注がれると、その魔力が発揮されます。魔力を高める為に、ルーンを二重三重に刻むこともあったといわれています。
ワルキューレは女に欺かれない為といっていますが、要するに毒杯を避けるためのルーンである。このルーンを杯と手の甲に彫り、さらに爪にはナウズのルーン( )を描きます。
こうすることで、酒に毒が混ぜられていた場合に察知する事が出来ます。『エギルのサガ』の第44章にも、このルーンを使った例が登場します。・・・エギルは短刀を引き抜くと自分の掌に突き刺した。彼は角杯を手にとって、ルーン文字を刻み付け、それに血を塗った。彼は次のように歌った。「角杯にルーンを刻めりその文字を血もて赤く染めたり猛き野牛の耳の樹(角の事)の根元にその言葉を選べ利浮かれ女のさす麦酒を場好むままに飲まんバールズが潔めし麦酒われのためになるやいなや知りたし」すると角杯は真っ二つにわれ、飲み物はわらの上に流れた・・・こうして、エギルは毒を飲まされる事なく助かったのです。
怪我をした場合は、枝のルーンを用いる事は、ワルキューレの言葉にもあります。このルーンを使う事で、怪我が樹に移るので、患者は治るのです。もちろん、病を治すルーンも存在します。『エギルのサガ』に、その例があります。エギルは、とある百姓の家で長らく臥せっている少女を気の毒に思いました。聞いてみると、近所の若者が治療の為に魚の骨にルーンを刻んで枕の下に置いたといいます。そこで、そのルーンを見てみると、誤ったルーンでした。エギルは、ルーンを削りとり、さらに骨を火中に投じて、ルーンの魔力を消しました。それから、新たに正しいルーンを刻んでベッドのクッションの下に置きました。すると、少女の病はたちどころに治ったといいます。このとき、エギルは、以下のように言葉を残しています。「正しく解くことを得る者の外は何人もルーンを彫るべからず。黒き棒(ルーンのこと)により惑わされし者少なからず余はほられたる魚骨に十のルーンを認めたりにらの菩提樹(乙女のこと)をかくも長く病につかせしはこれなり」正しいルーンの知識を持たないものが、生半可な知識で使うと、このようなことが起こるという実例なのである。
何かを忘れさせるルーンです。ワルキューレから智恵を授かったシグルズは、彼女と結婚の約束をしましたが、このルーンの力によって約束を忘れてしまい、別の王女と結婚してしまいます。これに怒ったワルキューレのために、シグルズは殺され、ワルキューレも後を追います。哀れなのは、残された未亡人のグズルーンです。古エッダ『グズルーンの歌』によれば、彼女もまた忘却のルーンのかかった飲み物を飲まされ、夫の事を忘れさせられてしまいました。
呪詛のルーンは、相手をどう呪うかを記述するせいか、一文字のルーンでは呪詛のルーンにはなりません。何より、呪詛を意味するルーン文字が存在しないのです。呪詛のルーンが使われた例を、二つほど挙げておきます。『エギルのサガ』と『グレティルのサガ』に、その例があります。まず、医療のルーンでも登場したエギルですが、彼は宿敵の血斧のエイリーク王に追われ、国外へと脱出するときに、「侮辱の棒〈Neidstange〉」を建てて王と王妃を呪ったのです。エギルは島の高台に立ち、棒の先に馬の頭を刺し、「ここに侮辱の棒を立て、この侮辱をエイリーク王とグンヒルド王妃に向けん」と唱え、馬の頭を王と王妃の城に向けたのです。さらに、「この侮辱をこの国に住むと地神に向けん。
彼ら全て、エイリーク王とグンヒルド王妃を国外追放せぬうちは、彷徨いて留まる所を得ず」と呪い、棒にルーン文字を刻み、さらに先程の呪文全ても刻んで、岩の割れ目に差し込んだのです。この呪いは功を奏し、エイリーク王は英国のハーコン王に追放され、二度とノルウェーに戻ることなく、異国の土となりました。エギルは、ルーン魔術によって復讐を遂げたのです。エギルと違い、グレティルはルーンによって破滅させられました。グレティルに恨みを持つ魔女の老婆ソールズは、渚で樹の根を広い、それにルーン文字を彫りつけて、自分の血を塗ってから呪文を唱えました。そして、この根の周囲を太陽と反対周りに後ろ向きで歩きながら、呪文を唱えつづけました。この儀式が終わった後、老婆は樹の根を海に投げ込んで、ドラング島のグレティルの災いとなれと命じました。
樹の根は、本当にドラング島に流れ着きます。だが、グレティルも人にすぐれた豪傑です。この樹の根に不吉なものを感じ、二度も海に捨てるのですが、そのたびに樹の根は島に流れ着きます。そして、普段は仕事をさぼる不精な下男が、薪にしようと拾ってきたのです。グレティルは、そんな樹が混じっているとは知らず、樹を割ろうと斧をたたきつけました。斧の刃は滑って、グレティルのひざを傷つけました。
この傷は悪化して歩く事も出来なくなり、攻め込んできた敵に討ち取られてしまいました。
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